事例・特集 | 財務

【業界別財務分析】宅配便業界編

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今回は大手宅配便事業社の財務指標について分析します。ヤマトホールディングスとSGホールディングスは宅配便業界の競合相手ですが、経営戦略の違いにより収益性で異なります。財務諸表を用いて大手宅配便事業社の業界動向と財務特性を分析します。

大手宅配便事業社の動向

宅配便事業は、全国展開の流通網を構築するための資本投下が競争優位性の源泉になる資本集約型産業であり、市場シェア上位2社であるヤマト運輸(47%)と佐川急便(31%)で約8割の市場シェアを獲得しています。また、地域の物流拠点から自宅までの配送(ラストワンマイル)にセールスドライバーが必要な労働集約型産業でもあります。

B2Cのネット通販に加え、メルカリのようなC2Cなどの個人需要の拡大により配送量が急増し、ヤマト運輸の宅配便取り扱い量は、2000年度には25億個に達し、2007年度には30億個を突破、2016年度には40億個にまで達しています。

ヤマト運輸は、アマゾンジャパンなどネット通販の利用者の増加を背景に取り扱い荷物量が急増した結果、セールスドラーバーを中心とした人手不足から採算悪化を招き、2017年10月に150円前後の基本運賃の値上げを実施しました。続いて佐川急便が2017年11月に、日本郵便も2018年3月に基本運賃の値上げを行いました。宅配便各社は、運賃・サービスの改定に合わせて、「配達時間帯」の指定枠の変更や当日再配達の受付締切時間を繰り上げるなど、労働環境の改善を推進しています。

宅配の再配達率(大手宅配便事業者3社の合計数値:2017年10月の実績)は、国土交通省によると全体の15.5%となっており、セールスドライバーの人手不足や地球温暖化、再配達によるコスト増加の観点から、宅配の再配達率の低下が大きな課題です。国土交通省でも、再配達率の減少につながる宅配ボックスの設置を推進しており、宅配ボックス設置部分については、マンションなどの共用廊下と同様に容積率の対象外になっています。

宅配便事業者は、再配達率割合を減少するために、コンビニとの連携を強化しています。2015年8月には楽天とローソンが、2015年10月にはファミリーマートと日本郵便が取り扱い荷物のコンビニ受け取りサービスを開始しました。特にファミリーマートでは、2016年3月にヤフオクとメルカリのコンビニ発送サービスを開始しました。アマゾンジャパンでは、即日配送サービスである「当日お急ぎ便」が一部のファミリーマート店舗で受け取れるサービスを開始しています。日本郵便もファミリーマートと提携して、2016年4月に訪日外国人が日本から発送した荷物を海外のファミリーマートで受け取れるサービスを開始しています。

大手宅配便各社の株主総資本利益率(ROE)

国内の大手宅配便各社の業界平均を見ると、ROEは3.0%、当期純利益率は2.9%、総資産回転率は1.1回、財務レバレッジは1.9です。業界トップ2社であるヤマト運輸と佐川急便を比較すると、佐川急便のROEが高いことがわかります。ROEが高い要因は、SGホールディングスの当期純利益率がヤマトホールディングスより高いことが挙げられます。

この背景には、業界トップ2社の大手ネット販売事業者に対する対応の違いがあります。アマゾンジャパンの配送については、2013年まではヤマト運輸とSGホールディングで分け合っていましたが、2013年にSGホールディングが撤退を表明しました。その後、同社の配送のほとんどをヤマト運輸が請け負っていました。SGホールディングスが撤退した理由としては、アマゾンジャパンの要求水準が高い一方で、価格交渉が難航したことが報道されました。ネット販売が普及する中でサービスとして配送料無料がうたわれるようになり、コスト負担を宅配便事業者に転化する動きがメディアに取り上げられました。

大手宅配便各社の株主総資本利益率(ROE)

ヤマト運輸は、アマゾンジャパンのネット通販拡大により配送量が急激に増え、人員不足と人件費の高騰により佐川急便と比較して利益率が低下していることが伺えます。ヤマト運輸は2017年4月にアマゾンジャパンの当日配送から撤退すると報じられ、2018年には人件費増加を理由とした運賃値上げでアマゾンジャパンと合意し、2018年1月から荷物の配送単価を引き上げましたが、競合他社と比較すると当期純利益率が低く、その結果としてROEが低迷していることがわかります。

一方、アマゾンジャパンは当日配送サービスを専門に手がけるDP(デリバリープロバイダー)を活用し、独自の配送網の構築に乗り出しました。DPとして個人事業者の活用を本格化することで、ヤマトなどの大手に偏っていたネット通販の配送も組織化された個人など小規模の運送業者が請け負うことが増えています。また、アマゾンは「プライムナウ」の実施に当たり、消費者に近い場所に小規模な配送センターを複数開設しています。同サービスでは、有料会員向けに1時間以内に配送しますが、地域ごとの小さな配送センターを配置し、顧客への直接配送を実現していくようです。

大手宅配便各社の効率性、財務レバレッジ

ROE(株主総資本利益率)を分解すると、「当期純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」の3つに分解できます。

ROEの分解(ヂュポンの分解)

上の分解式の3つ目の要素である「財務レバレッジ」は、自己資本比率の逆数になります。企業が使用する総資本額が自己資本の何倍になっているかを示す指標です。例えば、企業が使用する総資本のうち他人資本による資金調達額があれば、財務レバレッジの数値は1.0よりも大きくなり、売上利益率と総資本回転率から得られる「資本利益率」を拡大する効果があります。この拡大効果は、「てこの作用」に類似していることから「財務レバレッジ」といわれています。

大手宅配便各社の株主資本利益率を分解して、事業の効率性と財務レバレッジを見てみましょう。

大手宅配便各社の総資産回転率の平均は1.1回と、他の業界と比べても同程度です。ヤマトホールディングスとSGホールディングスは、それぞれ1.4回と1.5回と業界平均より高いことから、シェア下位の競合他社と比べて物流センターや配送トラックの効率化が図られていることが推測できます。

財務レバレッジの業界平均は1.9で、こちらも他の業界と比べて同程度であるといえます。ヤマトホールディングスとSG

ホールディングスのシェア上位2社は、それぞれ2.0と2.2であり、資本調達戦略において特徴は見受けられません。

大手宅配便各社の生産性

大手宅配便各社の生産性

大手宅配便各社の生産性について見てみましょう。生産性では、「一人当たり売上高」「一人当たり粗利額」に注目します。ヤマトホールティングスの一人当たり売上高:7,221,220円、一人当たり粗利額:404,388円で、生産性が極めて低いことがわかります。一方、SGホールディングスは一人当たり売上高:22,207,391円、一人当たり粗利額:2,287,353円と、業界平均に比べて高い数値となっています。

生産性指標から、ヤマトホールディングスがアマゾンジャパンに単価アップの交渉をしていた理由を伺い知ることができます。SGホールディングスは2013年にアマゾンジャパンの配送事業者から撤退したことで生産性を改善しています。大手宅配便業界にとって大手ネット販売の取引条件が与える業績への影響力が大きいことがわかります。

生産性が高い企業は、一般的に社員の昇給や賞与アップ要求にも対応できるため、事業を発展させるための目指すべき姿であるといえます。給与水準と労働生産性については、こちらの記事も参考になります。

大手宅配便各社のコスト構造

大手宅配便各社のコスト構造について見てみましょう。ここでは、「売上高対売上原価率」「売上高対人件費率」「売上高対営業利益率」に着目します。

大手宅配便各社のコスト構造

各社の売上高対費用比率を見ることで、各社が何にお金を投資しているかについての投資戦略を探ることができます。

宅配便業の決算書では、売上原価に「輸送費」、「保管費」、「荷役費」が含まれており、この3項目で全費用の約9割を占めるのが一般的な宅配便事業者のコスト構造です。特に輸送費は全体の約6割を占めており、輸送費の増減が物流コストに及ぼす影響が圧倒的に大きいといえます。

公益財団法人日本ロジスティックシステム協会が実施している物流コスト調査によると、輸送の9割以上が外注(委託)であることから、輸送費の増減は委託運賃の動向に左右されます。宅配便業の売上高対人件費率が低い理由は、輸送のほぼすべてを外注しているため、会社の規模に比べ自社の社員が少ないからです。

ヤマトホールディングスは、売上高対売上原価率が5社中最も高く、アマゾンジャパンの配送受託が収益構造に大きな影響を与えています。SGホールティングスはヤマトホールディングスと比べ、売上高対営業利益率では2倍以上の利益率を確保しており、大手宅配便事業社の中では高収益であるといえます。

まとめ

今回は、大手宅配便事業社の財務分析を行い、財務諸表から各社の経営戦略について考察してみました。ヤマト運輸と佐川急便のアマゾンジャパンに対する対応の違いが両者の業績に大きく影響を与えており、佐川急便がアマゾンジャパンの宅配事業から撤退した背景が財務諸表からも明確になりました。

MBAバンク資料請求ボタン

MBAバンクへのリンク

WRITER筆者

MBA CROWDSOURCING 編集部