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【業界別財務分析】居酒屋業界編

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今回は居酒屋業界の財務指標について分析します。同じ業界内でも経営戦略の違いにより、「損益計算書の有益性」や「貸借対照表の資産の保有形態」が異なります。財務諸表を用いて居酒屋業界の特性を分析します。

居酒屋業界の動向

居酒屋業界の市場規模は、富士経済の調査における料飲店の市場規模を参考(居酒屋以外の業態も含まれる)にすると、2016年の市場規模は約5.5兆円であり、2000年からの推移では低減傾向にあります。事業所総数も総務省・経済産業省が2012年に実施した経済センサス活動調査では、1996年には約15万3,382店であったが、2012年の調査では6万9,097店にまで減少しています。家飲み傾向や飲酒人口の減少およびリーマンショックによる企業の倒産、均一価格などの低価格化などが市場規模、事業者数の減少要因であると考えられます。

近年では居酒屋業界も六次産業化に取り組む動きが見られます。国政としても農林水産省が地方の雇用と所得を確保し、若者や子どもが農村に定住できる社会を構築するために、農林水産業生産者と加工・販売の垂直統合や地域資源を活用した新たな産業の創出を図るなど、農林漁業の六次産業化を推進しています。居酒屋業界でもこのような社会動向に追従する企業が増えており、チムニーは生産・加工・流通販売までの一貫した六次産業化体制に注力しています。中国地方や四国地方の漁業権、新潟漁業協同組合地方卸売市場と島根県の大田水産物地方卸売市場における買参権を活用しており、全国から鮮魚を直接調達しています。エーピーカンパニーも、生産者(一次産業)から流通(二次産業)、販売(三次産業)までの全てを垂直統合しており、独自の調達ルートを構築することで鮮魚を安く仕入れることができます。

大手居酒屋各社の株主総資本利益率(ROE)

国内の大手居酒屋各社のROEは、業界平均で9.4%です。当期純利益率は、業界平均が1.8%で大手企業は収益性が低迷していることがわかります。一方で、財務レバレッジは業界平均で2.8%と他の業界と比較して高く、成長に軸足を置いた投資が必要であることがうかがえます。大手居酒屋各社は、立地の奪い合い、人の奪い合いという中で一定規模を超えたときに、成長の壁にぶつかっている現状が見受けられます。特に、売上高が500億円まではある程度利益が出ているものの、500億円を超えていくと、利益を確保することが難しくなるといわれています。

このような収益性が低い業界において、チムニーは比較的収益が出ています。その要因は6次産業化を推進し、やまやの傘下に入ることで流通を強化するなど事業構造の変革にいち早く取り組んだ成果であると考えられます。

居酒屋業界各社収益性比較

大手居酒屋各社の収益性、効率性、財務レバレッジ

ROE(株主総資本利益率)を分解すると、「当期純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」の3つに分解できます。

ROEの分解(ヂュポンの分解)

上の分解式の3つ目の要素である「財務レバレッジ」は、自己資本比率の逆数になります。企業が使用する総資本額が自己資本の何倍になっているかを示す指標です。例えば、企業が使用する総資本のうち他人資本による資金調達額があれば、財務レバレッジの数値は1.0よりも大きくなり、売上利益率と総資本回転率から得られる「資本利益率」を拡大する効果があります。この拡大効果は、「てこの作用」に類似していることから「財務レバレッジ」といわれています。

大手居酒屋各社の株主資本利益率を分解して、事業の収益性と効率性を見てみましょう。

大手ドラッグストアで最もROEが高かったDDホールディングスは、当期純利益率(事業の収益性)が2.2%で業界平均(1.8%)より高く、総資産回転率は1.6回と業界平均(1.7回)より低く、財務レバレッジは4.9と業界平均(2.8)よか1.5倍以上高いことがわかります。

一方、ROEが最も低いワタミ(ROE:0.9%)は、総資産回転率と財務レバレッジは高いものの、当期純利益率が0.2%と低迷していることが原因です。ワタミの利益率低迷の要因の1つは、リーマンショック後にも継続して出店した結果、国内全店店舗当たりの売上高が、2009年度から2010年度にかけて大幅に減少しました。その後もワタミの労働環境への社会的批判から客数の減少が続き、2013-2015年度は外食事業が営業赤字に陥りました。

大手居酒屋各社の生産性

大手居酒屋各社の生産性比較

大手居酒屋各社の生産性について見てみましょう。生産性では、「一人当たり売上高」「一人当たり粗利額」を見ることにします。やまやの一人当たり売上高:76,211,096円、一人当たり粗利額:25,378,295円で、生産性が高いことがわかります。やまやの生産性が高い要因は、居酒屋「はなの舞」や「さかなや道場」「豊丸水産」などの店舗を運営しているチムニーをグループ化したことです。

「はなの舞」はファミリー層含む幅広い年齢層を対象に客単価2,700円から3,000円、「さかなや道場」は20代から60代の会社員を対象に客単価3,300円から3,800円、「漁鮮水産」は30代から60代の会社員を対象に客単価3,500円から4,000円で展開しています。

チムニーは、大田区の東京都中央卸売市場内に拠点があります。羽田空港に近い立地を活用し、全国で水揚げされた鮮魚を漁師から直接仕入れるシステムを利用して、関東を中心とした自社店舗に配送しています。“活魚”や“活貝”へのこだわりが顧客の支持を得ています。不振が目立つ居酒屋業態が多い中でしっかりと利益を確保しています。チムニーが新たにやまやに加わったことで、グループ全体としては、原価比率が低くなり、もうけが徐々に増えてきたことが一人当たり粗利額の高さに表れています。

生産性が高い企業は、一般的に社員の昇給や賞与アップ要求にも対応できるため、事業を発展させるための目指すべき姿であるといえます。給与水準と労働生産性については、こちらの記事も参考になります。

大手居酒屋各社のコスト構造

大手居酒屋各社のコスト構造について見てみましょう。ここでは、「売上高対売上原価率」「売上高対人件費率」「売上高対営業利益率」に着目します。

大手居酒屋各社のコスト構造

各社の売上高対費用比率を見ることで、各社が何にお金を投資しているかについての投資戦略を探ることができます。

売上高対売上原価率が最も高いのは「やまや」です。売上原価に占める割合が最も高い項目は食材の仕入れです。やまやは、その点で売上に対して高い食材を仕入れ顧客に提供していることがわかります。一方で、やまやの売上高対人件費率は5.3%と最も低く、省人化により一人当たり売上高が高いことが寄与しています。

チムニーと鳥貴族も、売上高対人件費率がそれぞれ9.8%と9.2%と業界平均(19.2%)の半分程度です。人手不足によるアルバイトの確保が困難であることも重なり、両社とも注文や受付に端末機を利用することで、少ない人数のアルバイトでも顧客にサービスが提供できるオペレーションシステムを導入しています。

チムニーの売上高原価率(32.7%)は業界平均(46.9%)より10%以上低く、また売上高対人件費率も9.8%と低いことが最も高い営業利益率(6.6%)を達成している要因です。

まとめ

今回は、大手居酒屋業界各社の財務分析を行い、財務諸表から各社の経営戦略について考察してみました。財務諸表から各社の仮説が導き出せたら、実際に店舗を利用したり、経営者のインタビュー記事などの定性情報で検証してみることも有効です。

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WRITER筆者

MBA CROWDSOURCING 編集部