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【業界別財務分析】ゼネコン(建設)業界編

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今回はゼネコン(建設)業界の財務指標について分析します。同じ業界内でも経営戦略の違いにより「損益計算書の有益性」や「貸借対照表の資産の保有形態」が異なります。財務諸表を用いてゼネコン(建設)業界の特性を分析します。

ゼネコン業界の特性

ゼネコン業界は規模別に3タイプに大別すると、業界の特性がわかりやすく見えてきます。年間の工事完成売上高が1兆円の規模を超す大手ゼネコン(大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店)、2,000億円強の売上規模を有する準大手(長谷工コーポレーション、戸田建設、五洋建設、前田建設、三井住友建設、安藤・間など)、2,000億円未満であるが売上高が上位40社に入る中堅の3タイプに分類されます。また他にも、地方で有力な営業基盤を持つ大本組(岡山県)、福田組(新潟県)、矢作建設工業(愛知県)などの地方有力ゼネコンもあります。大手ゼネコンは施工工事の営業はもちろん、設計部門、エンジニアリング部門および建設技術の研究開発部門を持つなど、業界の主導的役割を果たす存在です。

上位40社の受注高の推移を見てみると、市場全体が縮小するなか、2007年度までは大手ゼネコンを中心に底堅い受注を維持していましたが、2008年の金融危機以降は大手、準大手、中堅ともに一気に受注高を減少させていました。2010年度に受注高は下げ止まり、建設投資は増加傾向を見せ、2016年度の受注高は、建築、土木ともに増加しています。建築では民間設備投資や民間住宅投資が増加し、土木では建設投資や大型工事の増加から堅調に推移しています。そういった、ここ10年間の傾向を見ると、2000年代前半は規模の劣るゼネコンほど苦戦が目立ち、シェアを落としましたが、2009年度以降は規模別シェアの変動は見られず、中堅以上のゼネコンの受注高に占める大手ゼネコンの受注構成比は50%前後で推移しています。

ゼネコン各社の株主総資本利益率(ROE)

大手・準大手を中心としたゼネコンのROEは業界平均で5.7%と安定している一方で、この業界は投資家にとってはあまり魅力的ではないといえます。最もROEが高い大成建設は、当期純利益率が業界平均より1.4倍ほど高く、コストコントロール面で優れていることがわかります。また、建設業界は多額の資金投資が必要になるため、資本調達の方法として金融機関や社債の発行などの負債に依存する比率である財務レバレッジ(業界平均:3.1)が、高いことがわかります。メインバンクとなる金融機関と良好なかつ長期的な関係性を構築することが求められています。

ゼネコン業界各社のROE

出典:各社発表資料

事業の収益性と効率性、財務レバレッジ

ROE(株主総資本利益率)を分解すると、「当期純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」の3つに分解できます。

ROEの分解(ヂュポンの分解)

上の分解式の3つ目の要素である「財務レバレッジ」は、自己資本比率の逆数になります。企業が使用する総資本額が自己資本の何倍になっているかを示す指標です。例えば、企業が使用する総資本のうち他人資本による資金調達額があれば、財務レバレッジの数値は1.0よりも大きくなり、売上利益率と総資本回転率から得られる「資本利益率」を拡大する効果があります。この拡大効果は、「てこの作用」に類似していることから「財務レバレッジ」といわれています。

ゼネコン各社の株主資本利益率を分解して、事業の収益性と効率性を見てみましょう。

上の図表で最もROEが高かった大成建設について、その要因を見ていくと、当期純利益率(事業の収益性)が8.0%で最も高く、総資産回転率も1.22倍で高いことがわかります。一方、ROEが最も低い五洋建設(ROE:3.4%)は、財務レバレッジは高いものの、総資産回転率が0.79%であることが低迷の原因です。利益率低迷の要因の1つとして、自社が所持している資産の稼働率が低く、また売上高の獲得に貢献していない不要な資産を保有していることが推測されます。ROEを高めるために、売上高獲得力が乏しい不要な資産の売却と機械・設備の稼働率を高める受注の獲得が必要です。

ゼネコン各社のコスト構造

ゼネコン各社のコスト構造について見てみましょう。ここでは、「売上高対売上原価率」「売上高対人件費率」「売上高対研究開発費率」に着目します。

ゼネコン各社のコスト構造

出典:各社発表資料

各社の売上高対費用比率を見ることで、各社が何にお金を投資しているかについての投資戦略を探ることができます。

売上原価の主要科目は、建設工事に伴なう材料費、加工費(外注加工費も含む)、経費です。ゼネコンでは実に売上の85%以上を売上原価が占めています。ゼネコン業界では、材料費や人件費の高騰や建設工事の遅延などが生じると赤字に陥りやすいことが数値からわかります。一方、売上高に占める人件費の割合は2%程度と他の業界と比較すると極めて低いです。これは建設工事に伴う人財はほぼ全て外部の人財から賄っており、ゼネコンの社員数は建設工事の人員に比較すると極端に少ないためです。建設業は売上高が高い(特に大手ゼネコンは高い)ため単純には言えないかもしれませんが、大手・準大手ゼネコンの売上高対研究開発比率は売上高の1%以下と低く、数字だけで見ると、積極的な研究開発は行われていない、もしくは、事業における研究開発の位置づけがそこまで大きくない(捉えられていない)可能性があります。

まとめ

今回はゼネコン各社の財務分析を行い、財務諸表から各社の経営戦略について考察してみました。費用構造から見るとゼネコン業界では、材料費や外注人件費のコントロールやスケジュールの厳守といったプロジェクトマネジメントが利益獲得のために極めて重要であるといえます。

この点は、先に取り上げたシステムインテグレーター業界(Sier業界)と類似しているといえます。業界構造も、元請けである大手ゼネコンが上流工程に位置し、それらの工事を請け負う中堅以降のゼネコンは2次受け、3次受けと裾野が広いという点で同じです。

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WRITER筆者

MBA CROWDSOURCING 編集部