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【業界別財務分析】システムインテグレーター(SIer)業界編

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今回はシステムインテグレーター(SIer)業界の財務指標について分析します。同じ業界内でも経営戦略の違いにより「損益計算書の有益性」や「貸借対照表の資産の保有形態」が異なります。財務諸表を用いてシステムインテグレーター業界の特性を分析します。

システムインテグレーター業界の財務特性

システムインテグレーター(以下、SIerと略称)の財務構造の特徴は、総費用に占める「人件費」の割合の高さです。財務諸表では人件費以外にも「外注費(外部人財への業務委託費)」が多く発生しており、「外注費」の大部分は実質的には人件費に相当します。SIer業界は労働集約型産業であるため、人件費の高騰や人手不足が収益に大きな影響を与えます。そのため、近年は自らデータセンターを保有して顧客企業のデータ管理を行ったり、運用中のサポートサービスを行ったりといったストック型ビジネスを強化することで、収益の安定化を図る企業が多く見られます。

次に、SIerで注目すべき財務諸表の科目は、「研究開発費」と「無形固定資産」です。自社のパッケージソフトを販売しているメーカー系SIerでは研究開発費と無形固定資産額が計上されています。一方、システム開発の下請け業務を担う独立系SIerは、受託開発だけを行うため「研究開発費」や「無形固定資産」はほとんどありません。

SIer業界各社の「売上高」と「営業利益率」を見ると、パッケージソフトやコンサルティング機能の有無が各社の競争力に現れています。純粋なSIerは、顧客の要望ごとに多くのシステムエンジニア、プログラマーを投入し、システム構築を行う典型的な労働集約型のビジネスを展開しているため、規模の拡大が収益性の向上に直接的にはつながりにくい。このような業態を取る事業者の多くは営業利益率がおおむね5%〜10%前後になっています。一方、オラクルやSAPなどのようにソフトウェアパッケージを自社開発している企業は、規模の経済が効きやすく、利益率も相対的に高くなりやすいといえます。

収益性向上のため、大手企業はより付加価値の高い領域で差別化を図っています。例えば、IBMがPricewaterhouseCoopers(プライスウォーターハウスクーパース、GBR)のコンサルティング部門を買収し、2002年にIBMビジネスコンサルティング(2010年4月1日に日本IBMと経営統合)を発足させたり、2004年にNECもアビームコンサルティングを買収したりするなど、より上流のコンサルティング機能の強化を目指す動きも目立ちます。

オフショア開発を行うインド企業は高い営業利益率を確保

主要事業者の海外売上構成比率と営業利益率の関係を見ると、オフショア開発によって人件費を抑えたインドの事業者や、海外比率が高い企業の営業利益率が高い傾向にあることがわかります。

Tata Consultancy Servicesなどインドの主要プレイヤーは、売上高の約93.7%を海外から挙げており、インドや周辺新興国でのオフショア開発センターでのシステム開発を中心としています。同社の売上高人件費比率は2017年3月期で52.2%であり、コストを抑制していることが高い営業利益率につながっています。先進国の場合は、人件費率が約60%、その他管理費なども新興国と比べて高くなるため、営業利益率が圧迫されます。

SIer業界ではプレイヤーの増加による価格競争の進展によって、営業利益率の低下が懸念されていますが、現状は各社のコスト削減努力などによって、サービス価格の低下が営業利益率低下には直結していない状況であるといえます。特にIBMは、ソフトウェアやサービスなど付加価値の高い事業に構造転換を積極的に進めることで、営業利益率を改善させています。

システムインテグレーター各社の株主総資本利益率(ROE)

国内の主要システムインテグレーターのROEは、業界平均で11.1%です。自社のパッケージソリューションを販売している富士通や大塚商会、また自社にコンサルティング部門を有している野村総合研究所のROEが高いことがわかります。ROEの観点においても、コンサルティング機能や自社のパッケージソフトを所有するSIerはROEが高いといえます。

国内主要SIerの株主総資本利益率(ROE)

事業の収益性と効率性、財務レバレッジ

ROE(株主総資本利益率)を分解すると、「当期純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」の3つに分解できます。

ROEの分解(ヂュポンの分解)

上の分解式の3つ目の要素である「財務レバレッジ」は、自己資本比率の逆数になります。企業が使用する総資本額が自己資本の何倍になっているかを示す指標です。例えば、企業が使用する総資本のうち他人資本による資金調達額があれば、財務レバレッジの数値は1.0よりも大きくなり、売上利益率と総資本回転率から得られる「資本利益率」を拡大する効果があります。この拡大効果は、「てこの作用」に類似していることから「財務レバレッジ」といわれています。

SIer各社の株主資本利益率を分解して、事業の収益性と効率性を見てみましょう。

上の図表で最もROEが高かった富士通は、当期純利益率(事業の収益性)が15.6%で最も高く、財務レバレッジも2.9倍で高いことが要因です。一方、ROEが最も低い日本電気(ROE:5.2%)は、財務レバレッジは最も高いものの、当期純利益率が5.2%であることが低迷の原因です。利益率低迷の要因の1つとして、当初計画していたシステム開発がスケジュール通りに進まず、人件費増による大幅な開発費負担が発生したことが推測されます。

SIer各社の総資産回転率は、業界平均である1.1回から大きなバラツキがありません。一方、財務レバレッジはNECの3.2倍から野村総合研究所や新日鉄住金ソリューションズの1.6倍までと、各社の資本戦略によってバラツキが大きいといえます。当期純利益率は各社のバラツキが最も大きく、利益率が高いSIerはコンサルティング機能(野村総合研究所)を有していることが特徴です。一方、利益率が低調であるSIerは、コンサル機能や自社のパッケージソリューションを持たず、大手SIerの下請け的立場で労働集約的ビジネスを展開している独立系SIerであるといえます。

システムインテグレーター各社のコスト構造

SIer各社のコスト構造について見てみましょう。ここでは、「売上高対売上原価率」「売上高対人件費率」「売上高対研究開発費率」に着目します。

国内主要SIer各社のコスト構造

各社の売上高対費用比率を見ることで、各社が何にお金を投資しているかについての投資戦略を探ることができます。

売上原価の主要科目は、システム開発に伴う人件費(外注費も含む)です。また、データセンターの構築などに伴い自社のハードウェア製品を販売する場合には、売上原価に機器の原価が含まれます。売上高対売上原価率の業界平均は、74.2%であり、各社とも大きなバラツキは見られません。

売上高対人件費率は、データ数が少ないですが、おおむね8%前後であることがわかります。「人件費」が低い理由は、自社の社員に対する人件費のみが計上されており、外部人財への業務委託費(プログラマーなどへの費用)は外注費に含まれているからであると推測されます。

売上高対研究開発費率は、自社のパッケージソリューションを開発しているか否かによって大きく変わります。メーカー系SIerは自社のパッケージソリューションをメイン商材にしていることが多いため、売上高に対して3%前後の研究開発費を計上していることがわかります。

まとめ

今回は、SIer各社の財務分析を行い、財務諸表から各社の経営戦略について考察してみました。財務諸表から各社の仮説が導き出せたら、経営陣のインタビュー記事などの定性情報で検証してみることも有効です。

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WRITER筆者

MBA CROWDSOURCING 編集部